徳島地方裁判所 昭和51年(行ウ)8号 判決 1984年4月27日
徳島市幸町三丁目七八番地
原告
今川康司
右訴訟代理人弁護士
田中達也
同市同町三丁目五四番地
被告
徳島税務署長
徳田昭
右指定代理人
武田正彦
同
藤田孝雄
同
曽根田一雄
同
桑原定信
同
金垣健一郎
同
工藤茂雄
同
坂本禎男
同
横山正之
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五〇年三月三日付でなした原告の昭和四八年分所得税についての更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(いずれも被告の昭和五〇年六月三〇日付異議決定によりその一部が取消され、更に国税不服審判所長の昭和五一年七月三一日付裁決で一部が取消された後のもの、以下同じ。)は、更正処分の申告納税額について金二四七〇万八二〇〇円を超える部分、過少申告加算税額について金一四万二七〇〇円を超える部分及び重加算税額について全部をいずれも取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、被告に対し、昭和四九年三月一五日、昭和四八年分所得税について、別紙一(A)欄記載のとおり確定申告をした。
2 被告は、原告に対し、昭和五〇年三月三日付で別紙一(B)欄記載のとおり更正処分、過少申告加算税賦課決定処分、及び重加算税賦課決定処分をした。
3 原告は、右三個の処分(以下「原処分」という。)について、昭和五〇年四月八日被告に対し異議の申立てをし、被告は昭和五〇年六月三〇日付で別紙一(C)欄記載のとおり原処分の一部を取消す決定をした。
4 原告は、右異議決定について、昭和五〇年七月二三日国税不服審判所長に対し審査請求をし、同所長は、昭和五一年七月三一日付で別紙一(D)欄記載のとおり原処分の一部を取消す裁決をし、右裁決書は昭和五一年一〇月四日原告に送達された。
5 しかしながら、別紙一(D)欄記載の(一)総所得金額は、その内訳の雑所得金額とともに、同(E)欄記載のそれを超える部分においてなお誤りであり、したがって右異議決定及び審査裁決により変更された原処分は、更正処分の申告納税額について金二四七〇万八二〇〇円を超える部分、過少申告加算税額について金一四万二七〇〇円を超える部分及び重加算税額について全部が違法なものであるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし4はいずれも認め、同5は争う。
三 被告の主張
1 原告の昭和四八年分所得税についての課税標準等及び税額等は別紙一(D)欄(一)ないし(一〇)記載のとおりである。
2 原告の雑所得・納税額
(一) 原告の雑所得金額は金七三四三万八〇五〇円であるが、その内訳は、別紙三記載の土地(以下「松田新田」という。)に関連する雑所得金額六四三三万九四七一円とその余の雑所得金額九〇九万八五七九円に大別される。
(二) 松田新田に関連する雑所得
(1) 原告は、昭和四八年三月二三日、松田新田を坪井弘之に代金一億四一三四万四〇〇〇円で売却した。
(2) 原告は、昭和四八年中に、訴外尾崎春実及び同平瀬基に松田新田の埋立造成工事を請負わせ、請負代金を三・三平方メートル当り金二〇〇〇円の割合で計算し、総額一二八〇万円を支払ったほか、同じく訴外勝浦組に金一一五〇万円を支払った。それゆえ、右埋立造成費の総額は金二四三〇万円である。
(3) 右(1)、(2)の事実を基礎にして算出された原告の松田新田に関連する雑所得金額は、別紙二記載のとおり金六四三三万九四七一円である。
(4) 原告の所得税額
右の雑所得金額等に基づき、原告の昭和四八年分所得税を計算すると、別紙一(D)欄記載のとおりである。なお、原告の妻には同年に分離長期譲渡所得金八〇〇万円があったため、原告に配偶者控除が認められない。
3 重加算税の賦課対象所得金額
(一) 松田新田の譲渡(雑所得)
(1) 売却価額の隠ぺい
原告は、前記2(二)(1)のとおり松田新田を代金一億四一三四万四〇〇〇円で売却したにもかかわらず、広島嘉平に対し昭和四八年三月二三日に代金一億一一四〇万円で売却したかのように仮装して虚偽の不動産売買契約書を作成し、右差額の金二九九四万四〇〇〇円を隠ぺいし、これに基づいて確定申告書を提出した。
(2) 土地造成費等の過大計上
原告は、松田新田の埋立造成費が金二四三〇万円であるにもかかわらず、勝浦組との間の造成契約に関する請負契約書を利用して、右埋立造成工事の請負人が勝浦組で工事代金が金四九三〇万円であるかのように仮装し、その差額金二五〇〇万円につき埋立造成費を過大に計上し、松田新田の譲渡に係る所得金額を隠ぺいし、これに基づいて確定申告書を提出した。
(3) 松田新田の譲渡に係る重加算税賦課対象所得金額
右(1)、(2)の原告の行為は国税通則法六八条一項所定の課税標準の基礎となるべき事実の隠ぺい、仮装行為に該当し、その金額は、金五四九四万四〇〇〇円となる。本件加算税賦課決定処分(異議決定、審査裁決後のもの、以下同じ。)は、右のうち、原告の確定申告額一九五六万七三一〇円(松田新田の譲渡に係る所得金額)と本件更正処分(同前)に係る所得金額(松田新田の譲渡に係るもの)六四三三万九四七一円との差額金四四七七万二一六一円について重加算税賦課対象所得金額としたものである。
(二) 北島町の建売住宅の譲渡(雑所得)
原告は、徳島県板野郡北島町中村字竹の下九-七ほか三筆の土地及び建物(以下「北島町の建売住宅」という。)を斉藤伍作ほか三名に売却し、その所得金額は金五六六万六七五〇円である。右のうち、板野郡北島町中村字竹の下九-七の土地一二九平方メートル及び建物(木造二階建て)六〇平方メートルについて、原告は、斉藤伍作に金五二〇万円で売却したにもかかわらず、金四二〇万円で売却したとの虚偽の売買契約書を作成し、これに基づいて確定申告書を提出し、右差額金一〇〇万円を隠ぺいしたものである。
(三) 徳島市中吉野町三丁目八二-一四の土地建物の譲渡(分離課税土地等の雑所得)
原告の分離課税土地等の雑所得金額は金三三八万三〇一三円である。右のうち、徳島市中吉野町三丁目八-二-一四の土地八二・五〇平方メートル及び建物六七・六五平方メートルについて、原告は、山田治に金七〇〇万円で売却したにもかかわらず金六四〇万円で売却したとの虚偽の売買契約書を作成し、これに基づいて確定申告書を提出し、右差額金六〇万円を隠ぺいしたものである。
(四) 右(一)ないし(三)により、本件更正処分に係る所得金額のうち重加算税賦課対象所得金額を計算すると、別紙四の(D)欄のとおりである。
4 加算税額及びその計算の基礎となるべき税額の計算
原告の確定申告に係る所得金額は、別紙五の所得金額欄の(A)確定申告額欄に記載のとおりであり、本件更正処分に係る所得金額は、同(B)更正額欄に記載のとおりである。
右確定申告額と本件更正額との差額のうち、重加算税の賦課対象となる所得金額は別紙五の増差額の内訳欄の(D)重加算税対象額欄に記載のとおりであり、これを基礎として国税通則法六八条一項及び同法施行令二八条一項に規定する計算方法に従って、重加算税の額の計算の基礎となるべき税額(以下「重加算税対象所得税額」という。)を算定すると同18確定納税額欄の(D)重加算税対象額欄のとおり金三二六三万九二〇〇円となる。
そして、本件更正処分により納付すべき所得税額(本件更正処分に係る確定納税額から確定申告に係る確定納税額を控除した金額)金四〇三九万三三〇〇円から、重加算税対象所得税額金三二六三万九二〇〇円を控除した残額金七七五万四一〇〇円が過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(以下「過少申告加算税対象所得税額」という。)となる。
以上により、被告は加算税については別紙六の被告主張額欄記載のとおり主張するものであるが、本件加算税賦課決定処分においては、同更正額(裁決後)欄のとおり、更正(裁決後)に係る増差所得税額四〇三九万三三〇〇円につき、重加算税対象所得額を三一八三万八〇〇〇円、過少申告加算税対象所得税額を金八五五万五〇〇〇円として各加算税の額を計算しているものであるが、これは重加算税対象所得税額を原告の有利に計算したものであるから、本件加算税の賦課決定処分は適法であり、何ら違法な点は存しない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告主張1の事実のうち、別紙一(D)欄記載の(一)総所得金額の内訳の雑所得金額、同雑所得金額の存在を前提とする(一)総所得金額、課税される所得金額の(五)総所得金額及び同五の三資産所得合算金額、(八)算出税額及びその内訳の(六)に対する税額、(一〇)申告納税額を否認し、その余は認める。
2 被告の主張2(一)のうち、雑所得金額の総額、松田新田に関連する雑所得金額は否認し、その余の雑所得金額、雑所得金額の大別の仕方、は認める。
3 同2(二)(1)は否認する。原告は、被告主張の日に広島嘉平に松田新田を代金一億一一四〇万円で売却した。ところが、広島は名義上の買主にすぎず、実質上の買主は広島の代理人として原告との折衝にあたった仙石芳次郎であり、仙石は、原告から松田新田を買受けたその日に、広島を名義上の売主として坪井弘之に松田新田を代金一億四一三四万四〇〇〇円で売却したものである。なお、この点について、国税不服審判所長は、請求人仙石の審査請求事件の昭和五二年一月二七日付裁決で右の二個の売買の代金差額二九九四万四〇〇〇円を、仙石の転売差益であると認定している。
4 同2(二)(2)のうち、松田新田の埋立造成費が金二四三〇万円であるとの点は否認する。右費用は金四九三〇万円であり、右埋立造成工事は、当初勝浦組に請負わせたが、進入路の関係から工事の一部を尾崎春実に請負わさざるをえなくなり、領収証の記載と実際の支払が一致しなくなった結果、誤解を招くに至ったものである。
5 同2(二)(3)につき、別紙二のうち、(一)譲渡価額、(三)造成費、(五)販売原価合計、(六)譲渡経費及びその内訳の広島嘉平への名義借料、(八)差引譲渡益は否認し、その余は認める。(一)譲渡価額は金一億一一四〇万円、(三)造成費は金四九三〇万円、広島への名義借料は〇円、(八)差引譲渡益は金一〇三九万五四七一円である。
6 同2(二)(4)のうち、原告の妻の所得額の存在及び原告に配偶者控除が認められないとの点は認め、その余は前記1のとおりである。
7 被告の主張3(一)(1)及び(2)は否認する。
8 同3(一)(3)、同3(四)、同4は争う。
9 同3(二)及び(三)は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。
被告主張1の事実のうち、別紙一(D)欄記載の(一)総所得金額内訳の雑所得金額、同雑所得金額の存在を前提とする(一)総所得金額、課税される所得金額の(五)総所得金額及び同五の三資産所得合算金額、(八)算出税額及びその内訳の(六)に対する税額、(一〇)申告納税額を除く部分、同2(二)(4)の原告の妻には昭和四八年に分離長期譲渡所得金八〇〇万円があったため、原告に配偶者控除が認められないことは当事者間に争いがない。
二 松田新田の売却代金額等について
いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一号証(坪井弘之作成部分については、同人の証言により真正に成立したと認められる。)、同第二号証の二(住友孝次作成部分については、同人の証言により真正に成立したと認められる。)、同第八号証の二、同第二〇、第二一号証、いずれも成立に争いのない乙第三号証の一、二、同第四号証の一ないし三、同第五号証の一、二(以上の乙号各証につき原本の存在、成立とも)、同第二六号証、証人仙石芳次郎(後記信用しない部分を除く。)同住友孝次(同前)、同広島嘉平(同前)、同坪井弘之(同前)、同白川忠晴の各証言、原告本人尋問の結果(同前)によれば、原告はその所有に係る松田新田の売却方を仙石芳次郎に依頼したが、更に同人から買手探しを頼まれていた住友孝次は仙石にその買手として坪井弘之を紹介したこと、住友孝次は仙石から手付金二〇〇〇万円を用意して昭和四八年三月二三日午後四時に原告宅に来るようにとの連絡を受け、その旨を坪井に伝えたこと、坪井は、新興木材有限会社振出に係る金額二〇〇〇万円、振出日昭和四八年三月二三日、支払地阿南市富岡町トノ町株式会社四国銀行阿南支店の小切手一通を所持して右原告宅に赴き、原告、仙石、住友孝次らと一堂に会したこと、その席で原告は坪井に対し、松田新田を売却するにつき、売却代金を坪当り金二万八〇〇〇円で総額一億四一三四万四〇〇〇円とし、手付金二〇〇〇万円は当日交付する、残代金の支払は実測面積による、埋立ては原告において行う、県道からの進入路は尾崎春実との共有登記とし、その幅は七メートルとする、原告は右土地の地目を雑種地に変更する、こと等を条件として提示したほか、税金対策上売却代金は右よりは低額のものであったことにしてほしい旨申入れたところ、仙石から、原告と坪井の取引の間にもう一人と取引があったことに仮装すれば売買代金の減縮が可能となるとの提案があったこと、坪井は、中間に取引を仮装することも含めて右の提示条件を全部承諾し、原告に対し即時同所において手付金として持参した前記金額二〇〇〇万円の小切手一通を引渡したこと、右売買取引における実質的買主は坪井が関係する住友興業有限会社(代表者住友励)及び四国開発興業株式会社であり、坪井は、買主を法人にすると右売買代金の圧縮ができにくいので買主名義を個人にしてもらいたい旨の原告の強い要請に応じて表面に立ったにすぎないものであったこと、そして、同年五月三一日、原告、仙石、広島嘉平、坪井、住友励、住友孝次ら関係者全員が小松島市の司法書士仙石-事務所に集り、その際坪井は、原告に対し、買受代金(実測面積との間にほとんど差異がなかったので当初のままとした。)の残金として株式会社四国銀行振出に係る金額九〇〇〇万円の小切手と現金三一四〇万円を引渡したこと、その後原告及び仙石らは、売主原告、買主広島、売買代金一億一一四〇万円とする仮装の不動産売買契約書(甲第三号証)を作成し、広島は名義貸料として原告から金一〇〇万円の支払を受けたことが認められる。
右認定に反する証拠として、甲第三号証(原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる。)乙第一二、第一三号証の各二(成立に争いがない。)、証人仙石芳次郎、同住友孝次、同広島嘉平、同坪井弘之の各証言(一部)、原告本人尋問の結果(一部)がある。右各証拠のうち、甲第三号証につき、仙石及び原告は、昭和四八年三月二三日若しくはその月ころ松田新田の売買契約書として作成した旨供述するが、成立に争いのない乙第二五、第二六号証によれば、甲第三号証に貼付の金二万円の収入印紙は昭和四九年四月三〇日告示のものであることが認められ、この事実によれば、甲第三号証は、右告示日以降に作成されたものであることは明らかであるというべく、また乙第一二、第一三号証の各二については甲第三号証に符節を合わせて作成されたものと認めるが相当であって、いずれも信用し難い。その余についても、前掲各証拠に照らしていずれも信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 造成費について
1 成立に争いのない甲第一号証の二、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一一号証の二、証人白川忠晴、同勝浦徹(後記信用しない部分を除く。)、同尾崎春実(同前)の各証言、原告本人尋問の結果(同前)によれば、次の事実が認められ、右各証言及び尋問の結果のうち、右認定に反する部分は信用できない。
(一) 原告は、昭和四七年九月ころ、勝浦組こと勝浦豊子(実質的には勝浦徹、以下「勝浦組」という。)に対し、松田新田の宅地造成工事を依頼した。勝浦組は、和田津川堤防上の道路を利用してトラックによる土石運搬を始めたところ、右道路は幅約三メートルでトラックの通行に狭い上、土石の運搬により道路に凸凹が生じてトラックの通行に因難な状態となった。
(二) そこで、原告は、昭和四七年一一月ころ、尾崎春実に対し、松田新田の北側に隣接する同人所有の土地の一部を通路として使用させてほしい旨依頼し、両者の間で、原告所有の松田新田のうち北端部分(小松島市和田島町松田新田五七番の二ほか九筆合計一〇九二平方メートル)と右尾崎所有地の一部(同所四〇番地)の二分の一の持分とを交換し、原告において後者の土地に幅約八メートルの私道を造設して永久にこれを使用できる旨の約がなされ、併せて尾崎からなされていた、同人所有の山土を利用したいので松田新田の宅地造成工事を請負わせてもらいたい旨の申入れについても、原告によって受け入れられた。
(三) 尾崎春実は、松田新田の造成工事につき、訴外平瀬基とともにほぼ同じ程度の分量を原告から請負った。そして、尾崎は訴外高木組こと高木久に、平瀬は平瀬好夫及び前田産業に、それぞれ下請けさせ、いずれも昭和四八年三月ころ、その工事を完成させた。
2 前掲甲第一号証の二、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一五号証の一ないし三、同第一八、第一九号証、同第二二号証の一ないし三、同第二三号証の一、二、同第二四号証の一ないし四、前掲白川忠晴、勝浦徹(後記信用しない部分を除く。)の各証言によれば、原告による造成工事着手前の松田新田は、総面積一万七七八五平方メートルで、深さ約五〇ないし六〇センチメートルの池が二つあり、原告が行った造成工事は、右土地全体につき盛土をして八〇センチメートルほど高くし、本件土地の東側と西側にそれぞれ石垣を築造するものであったこと、高松国税局における昭和四八年分宅地造成費の標準価額によれば、農地に対する高さ九〇センチメートルの盛土造成工事の費用は一平方メートル当り七一〇円、同様に昭和五三年分同標準価額によれば、右と同一条件で面積一〇〇〇平方メートル以上二〇〇〇平方メートル未満の土地についてのそれは一平方メートル当り一二〇〇円とそれぞれ評価されていたこと、後日松田新田を譲受けた大建工業株式会社は、昭和五三年一二月八日東四国ダイケンホーム株式会社に対し、本件土地につき高さ一メートルの盛土工事を請負わせたが、その請負代金は一平方メートル当り九〇〇円とこれに対する三パーセントの割合による諸経費を加えたものであったこと、本件土地に隣接する中川昇所有の土地はナカイハウス株式会社に売却され、同会社は、昭和五四年四月二四日川北土建株式会社に対し、右土地につき高さ一メートルの盛土工事を請負わせたが、その請負代金は一平方メートル当り六〇〇円であったことが認められ、証人勝浦徹の証言のうち右認定に反する部分は信用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
右事実によれば、高松国税局における昭和四八年分盛土造成工事費の標準価額は、その後のインフレ率を勘案すれば、現実の平均的工事費と比較して低額のものではなかったと言うことができ、右標準価額(一平方メートル当り七一〇円)に松田新田から原告が尾崎春実に交換譲渡した一〇九二平方メートルの土地を差引いた面積一万六六九三平方メートルを乗ずると一一八五万円余りの金額となるところ、これに前掲乙第一一号証の二を併せると、尾崎春実及び平瀬基が本件土地の造成工事により原告から支払を受けた請負代金の額は、被告主張の松田新田の埋立造成費金二四三〇万円から、後記認定の原告より勝浦組に対して支払われた金一一五〇万円を控除した差額金一二八〇万円を超えるものではなかったと認めるのが相当である。
また、前掲甲第一号証の二によれば、右造成工事に使用された用土のうちには、尾崎春実及び平瀬基によって使用されたのとは異なる部分のあったことが認められ、この事実に前認定の松田新田造成工事の請負に関する経緯、証人勝浦徹の証言(後記信用しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果(同前)を併せると、右異なる用土部分の造成工事は、勝浦組の施行部分として、前示尾崎及び平瀬の施行部分のほかに存することが認められる。そして、右甲第一号証の二によれば、原告は、昭和四八年五月三一日松田新田の譲渡によって取得した代金のうち九一〇〇万円を翌六月一日徳島信用金庫本店の原告名義の通知預金口座に預入れ、同月九日右預金口座から金一一五〇万円を現金で引出していることが認められ、この事実に成立に争いのない甲第八号証の四を併せると、原告は、昭和四八年六月一〇日、勝浦組に対し、右勝浦組の施行に係る宅地造成工事部分の代金として金一一五〇万円を支払ったことが認められる。
右認定に反し、証人勝浦徹及び原告本人は、「勝浦組が原告から松田新田の宅地造成工事を代金四九三〇万円で請負ったが、土石運搬路を確保するため尾崎春実に粗造成を請負わせ、仕上げは勝浦組が施行し、原告は右請負代金四九三〇万円を全部支払い、これを勝浦組と尾崎が分けて受領した。」旨供述し、その証拠として、右各供述に沿う甲第六、第七号証、同第八号証の一ないし六を挙げる。しかしながら、松田新田造成工事の平均的工事代金は前示のとおりであって、池の埋立て及び石垣の築造を考慮しても、右各供述における請負代金四九三〇万円は高額に過ぎる上、その支払についても、昭和四七年九月一五日に五二六万円、同年一一月一五日に七八九万円、同年一二月二八日に一三一五万円、昭和四八年一月三〇日に四六〇万円、同年三月二五日に六九〇万円、同年六月一〇日に一一五〇万円の計六回に分けて行われ、甲第八号証の一ないし六がその領収証であるとされるもののうち、昭和四八年六月一〇日の一一五〇万円を除いては、銀行預金口座からの引出しなど金員出所の裏付けに全く欠けているのに照らすと、右認定に反する各証拠はいずれも信用できない。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
四 松田新田に関連する雑所得について原告が、松田新田を取得するにつき代金四二〇五万一八六〇円を、付帯費用合計金一九六万六五五〇円を、譲渡経費のうち磯田展弘、仙石芳次郎、志村巽に対する手数料合計二七〇万円及び登記費用四六万七〇〇〇円を、支払利息四五一万九一一九円を、それぞれ支出したことは当事者間に争いがない。そして、原告が、松田新田につき、譲渡代金として一億四一三四万四〇〇〇円を取得し、造成費として二四三〇万円、広島嘉平に対する名義借料として一〇〇万円をそれぞれ支出したことは、前認定のとおりである。以上を総合すると、原告の松田新田に関連する雑所得は、被告主張のとおり六四三三万九四七一円となる。
五 申告納税額について
松田新田に関連するもの以外の雑所得として、原告に九〇九万八五七九円の所得があったことは、当事者間に争いがない。そうすると、同金額に前示松田新田に関連する雑所得六四三三万九四七一円を合わせ、原告の雑所得合計額は、被告主張のとおり七三四三万八〇五〇円となる。これに前記一の争いのない事実を併せると、原告の申告すべき適正な納税額は、別紙一(D)欄(一〇)記載のとおり六二二四万五六〇〇円と認められる。
よって、本訴請求のうち更正処分の取消しを求める部分は、理由がない。
六 各加算税について
1 被告の主張3重加算税の賦課対象所得金額のうち、同(二)の北島町の建売住宅の譲渡に関する金一〇〇万円及び同(三)の徳島市中吉野町三丁目八二-一四の土地建物の譲渡に関する金六〇万円については、当事者間に争いがない。
2 被告の主張3(一)(1)の事実のうち、原告が坪井弘之に対し松田新田を代金一億四一三四万四〇〇〇円で売却したにもかかわらず、広島嘉平に対し代金一億一一四〇万円で売却したかのように仮装して虚偽の不動産売買契約書を作成したことは、前示二のとおりであり、これに前掲甲第一号証の二を併せると、原告は右差額の二九九四万四〇〇〇円を隠ぺいし、松田新田を代金一億一一四〇万円で売却したとして確定申告書を提出したことが認められる。
3 原告が松田新田の埋立造成費として、いずれもその請負人である尾崎春実、平瀬基、勝浦組に対し、合計金二四三〇万円を支払ったにとどまることは前示三2に認定したとおりであり、これに前掲甲第一号証の二を併せると、原告は、勝浦組との間の埋立造成契約に関する請負契約書二通(甲第六、第七号証、その記載に係る請負代金額合計金四九三〇万円)と領収証六通(甲第八号証の一ないし六、その記載に係る合計金額は上記契約書に同じ。)により、右埋立造成工事の請負人が勝浦組で工事代金が金四九三〇万円であるかのように仮装し、右差額の金二五〇〇万円につき、埋立造成費として過大に計上し、松田新田の譲渡に係る所得金額を隠ぺいし、これに基づいて確定申告書を提出したことが認められる。
4 右1ないし3及び前記一の争いのない事実、弁論の全趣旨によれば、別紙五のとおり、原告が隠ぺい仮装した事由以外の事実のみに基づき納付すべき税額は二九五二万七〇〇〇円となるところ、同金額を、本件更正処分により原告が納付すべき税額六二一六万六二〇〇円(更正処分の申告納税額六二二四万五六〇〇円より予定納税額七万九四〇〇円を控除したもの)から控除した差額金三二六三万九二〇〇円が重加算税対象所得税額となり、また、右二九五二万七〇〇〇円から、原告の確定申告による納税額金二一八五万二三〇〇円と右予定納税額金七万九四〇〇円との差額二一七七万二九〇〇円を控除した差額金七七五万四一〇〇円が過少申告加算税対象所得税額となる。そうすると、重加算税は金九七九万一七〇〇円、過少申告加算税は金三八万七七〇〇円、合計金一〇一七万九四〇〇円となる。
ところが、前掲甲第一号証の二によると、本件各加算税賦課決定処分は、重加算税対象所得税額を金三一八三万八〇〇〇円(千円未満切捨て)、過少申告加算税対象所得税額を金八五五万五〇〇〇円(同前)とし、重加算税を金九五五万一四〇〇円、過少申告加算税を金四二万七七〇〇円としているのであるが、これは原告に有利に計算したものであるから、結局、本件各加算税賦課決定処分はいずれも適法であるというべきである。
七 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上野利隆 裁判官 田中観一郎 裁判官能勢顕男は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 上野利隆)
別紙一 課税処分表(四八年分)
<省略>
<省略>
別紙二 雑所得のうち松田新田の所得計算表
<省略>
別紙三
物件目録
小松島市和田島町字松田新田四九の一 田 三六四m2
〃 四九の二 〃 三六六m2
〃 五〇の一 〃 七八六m2
〃 五〇の二 〃 一九三m2
〃 五〇の三 池沼 七九〇m2
〃 五〇の四 〃 七九一m2
〃 五一 田 九八七m2
〃 五二 〃 九八〇m2
〃 五三の一 〃 一〇六九m2
〃 五三の二 〃 四二m2
〃 五三の三 〃 三八m2
〃 五四 〃 六八二m2
〃 五五 〃 九八八m2
〃 五六 〃 九八四m2
〃 五七 〃 一〇〇四m2
〃 五八 〃 一〇六三m2
〃 五九 〃 一三三八m2
〃 六〇 〃 一〇〇〇m2
〃 六一 〃 一一八〇m2
〃 六二 〃 八五四m2
〃 六三の二 〃 一二四六m2
〃 六四の二 〃 二〇一m2
〃 六四の三 池沼 八三九m2
別紙四
<省略>
別紙五 加算税の額の計算の基礎となるべき税額の計算(昭和四八年分)
<省略>
別紙六
<省略>